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Interview

有機化学を軸に
手を動かしながら考え、
経験を積み重ねたからこそ
仕事の幅も広がった

化学系エンジニア

小堀 超也

エンジニアとしての最大の強みは手先が器用なこと?

エンジニア略歴

  • 2009年新卒入社
  • 2010年~ジェネリック医薬品の分析業務
  • 2014年~新規光触媒の研究開発
  • 2015年~樹脂原料の基本製造技術の完成と効率化

浪人して有機化学を専攻
一つの研究を大学院まで継続した

薬剤を繰り返し配合して、生成物を検査する有機化学の仕事現場は、一見地味に見えるかもしれない。だが、その試行錯誤の中から、世界を変える新しい化合物や医薬品が生まれるのも事実。今回は、有機化学の魅力に惹かれ、新発見の可能性を追求し続けるエンジニアを紹介する。

有機化学に興味を持ったのは、大学受験を前にした受験勉強の時だった。

「有機化学とは、いわゆる亀の子のつながりによって、新たな性質を持った物質を生み出せるものです。私自身も、かつてなかった未知の物質を生み出してみたいと考えました」

大学受験では学習計画に失敗して二浪する。それでも有機化学を学びたいという希望の大きさは衰えることなく、神奈川県にある大学の化学科に進学。医薬品として将来世に出る可能性のある素材を生み出す研究を手掛けた。

「研究テーマは『十三員環マクロライド系抗生物質』の合成でした。マクロライド自体は、肺炎の治療などに使われているものですが、分子の組み替えなどにより、新しい性質や効能のある薬剤を生み出そうという試みです」

合成方法や分子構造の異なる化合物を試行錯誤でつくり出しては測定する毎日。

「いつ製品化できるかも全く分からない、気の遠くなるような研究でしたが、私の性格には合っていました」

その後、共同研究を行っていた他大学の大学院に進学することになる。就職活動では、一つのことだけを研究し続ける研究者の道よりも、有機化学に関わるさまざまな仕事に挑戦してみたいと考え、まさにそのような多様な配属先が用意され、技術の仕事を続けていけるメイテックに入社を希望した。

リーマンショック下、
苦戦して得た貴重な経験

入社はまさにリーマンショックの真っただ中。契約終了となったエンジニアが社内に溢れる状況の中で、新入社員の配属もままならなかった。

「名古屋テクノセンターに化学系の新卒は16人いたのですが、1人、2人と配属先が決まり、最後に私を含めた5人が残りました。年が明けても配属が決まらず、研修のカリキュラムが全部終わってしまうほどでした」

結局最後の5人は同じ企業に配属となるが、契約対価は厳しいものだった。

「配属先はジェネリック医薬品の大手メーカー。特許期間が終了した医薬品を自社製品として生産するために、正しい薬効成分があるかどうかを検査していく仕事です。薬効成分だけが入った溶液と、それと同濃度になるように試作品からつくった溶液を分析して、溶液中に薬効成分が同じ割合で含まれているかを確認するために、純度・製剤均一性・溶出・定量・確認などの理化学的試験を行っていきました」

業務開始にあたり、まず分析業務に必要な基本技術を問う実技試験が行われた。結果、不合格。だが、メイテックの仲間やお客さま先のエンジニアに質問し、再試験のためのドキュメントを独自にまとめた。その前向きな姿勢が評価された。当時のお客さまの上司から「あのときは、よく頑張りましたね」と言ってもらえたうれしさは忘れない。

「少しずつ業務内容は変わりましたが、同じ企業で4年間契約継続できました。そこで実感したのは、いつでも同じ動きで同じ結果を出す再現性の大切さ。もう一つは、契約対価が低いかどうかにかかわらず、まず挑戦してみる。そして、真剣に働けば貴重な経験を積めるという実感でした」

最後には、経験を生かして検査の作業手順書や製品標準書をまとめる仕事も任された。だが、研究開発の仕事をしたいという気持ちは捨てられず、戦略的ローテーションを希望した。

化合物を合成するだけでなく
説得力を持って伝える大切さを知る

2社目の配属先は、自動車メーカーの系列企業。その研究所で先端技術の燃料電池に使用する触媒の素材研究を行った。

「電気や機械、無機化学などさまざまな専門分野のエンジニアたちとのグループ開発です。研究する素材は無機化学・電気化学の知識が必要でしたが、お客さまからは、有機化学的なアプローチをしてほしいと言われました」

実験と会議を繰り返す研究開発の業務は、小堀さんにとって刺激的だった。

「ただ机の上で素材の合成を繰り返すだけではなく、成果をグループの共有財産とするために、文書にまとめて発表していくのは、良い経験になりました。専門領域の異なるエンジニアたちが集まっていたので、工夫して、誰にでも分かりやすい表現で伝える技術が磨かれました」

周囲との関係性を保ちつつ進める業務は有意義だった。

手先が器用なエンジニアとして、
新たな経験を積み重ねたい

現在関わっているのは、石油化学メーカーで、新製品の大量生産を視野に入れた工場建設前の分析データ収集の業務。

「ビーカーレベルでつくられた素材を、工場で生産ラインを立ち上げて、大量に同じものをつくっていくためには、さまざまなハードルがあります。まず、小規模の仮想プラントを使って製品化に足るものができるかどうかを調べます。現在は、製品レベルの化合物ができるか検査して、必要な場合には改善していく段階です」

高分子による製品は、有機化学と分子構造などに共通点も多い。

「高分子は知識がなかったので、書物や職場内でのリサーチで知識を補充していきました。でも、それ以上に大切なのは経験の積み重ね。実際に手を動かして作業し続ける大切さが、年を追うごとに分かってきた気がします。また、学生の研究から始まり、これまでの専門の化学を軸とした業務を通して、ものづくりの上流から下流までの流れを理解することができました。世の中の製品が私たちの手に届くまでには、さまざまな過程があることを改めて考えるようになりました」

業務で心掛けているのは、結果だけではなく自分の考えも伝えること。サンプルの化合物が期待通りの品質にならなかった場合、業務としては「ここに問題があった」と報告すればいい。

だが、他の現場で蓄えてきた知識などを通して、できる限り自分なりの改善策を付け加えるようにする。「このプロセスの加工時間を、もう少し長くしたら改善されるかもしれません」というように。

「今ではテーマリーダーも任されるようになり、メイテックの先輩から学んだことを実践しています。それはリーダーとして班員に対して気を配ること。効率アップなどに関してできるだけ手助けをする。質問しやすい雰囲気をつくり、聞かれたらしっかりと答える。私が先輩からしてもらってうれしかったことを、今後は後輩にしていきたいです」

エンジニアとしての強みは?と聞くと、にっこりと「手先が器用なこと」。正確な合成や検査・分析には、それが不可欠。

「現在の業務は、おそらく今後数年間は継続しそうです。その後は、自分自身に壁をつくらず、いろんな分野で新しい技術の課題に挑戦してみたいですね」

手を動かしながら考える。その経験の積み重ねの中から生まれる、小堀さんの新たな技術や発想が今後も楽しみだ。

※当社社内報「SYORYU」:2022年秋発刊号に掲載した記事です

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